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【2026年9月号】日常に身体性を取り戻す

  • 6 日前
  • 読了時間: 5分


2月、生きている実感がないと思った。何をもって生きているというのか? SNS、動画、画面越しにとめどなく流れる情報、無意識の他人との比較、承認欲求。自分はなんて器の小さい人間なんだろう、どうしようもないことを気にして……。


1週間ほど休みをもらって、車中泊の旅に出た。行ってみたかった場所なのに、何も感じることが出来ない。読みたかった本の内容も入ってこない。自分と向き合う時間を作るも、嫌な部分が見えてくるだけだった。4月になると畑も忙しくなり、多少は元気になったものの、意識がどうにも着地せず集中しきれない。


ある日、そんな自分にうんざりして考えるのをやめた。とにかく走ってみる。何も考えたくなかったので、何も考えられなくなるくらいキツい、限界だと感じるまで。深夜1時前、ついに限界を迎えて真っ暗な農道の端に座り込む。4月の夜はまだ寒く、脚はもう動く気がしない。何やってんだろうと思って空を見上げる。快晴。澄み渡った空気、静寂、落ちてくるような一面の星空!自分は一体何に悩んでいたのか?こんなに綺麗なところで暮らしているのに!自分の悩みなんて見えない点と同じじゃないか。疲れ切った身体が最高に気持ちいい。ああ、これだ、と思った。


――そんな体験から、僕の新しい挑戦が始まりました。こんにちは。農場4年目になりました、カナトです。去年は圃場長をやらせて頂き、なんとか皆の力を借りて走りきることが出来ました。やれることが増えた反面、自分の体調やメンタルの浮き沈み、精神の未熟さなど、課題が見えた年でもありました。なんだか暗めのスタートになってしまいましたが、ここからは明るい内容(多分)なので、少しの間お付き合い頂ければと思います。


冒頭でそれっぽく書きましたが、悩んでむしゃくしゃしたから走ってみたら、めちゃめちゃ身体に合っていた、という話です。タイトルにあるように「日常に身体性を取り戻す」というテーマを自分に課しました。


情報を受け取るだけの時間が一日の半分くらい占めているのでは?という気づきから、もっと能動的に、身体で感じたことを感じ尽くしたい。どんな天候や気温も気持ちいい、美しいと思いたい。もっと身体と世界を馴染ませたい。そう思ったのがきっかけです。


僕がやっているのはトレイルランニングという山を走るスポーツなのですが、そのタフな性質上、身体の仕組みや筋肉の効率よい合成、トレーニングについて深く知る必要がありました。調べるうちに、野菜を味や栄養価を狙ってつくるように、自分の身体に関してもデザインすることが出来ると気づきます。身体の使い方はもちろん、摂取カロリーの量や取り方、タンパク質と糖質、ビタミン類の関係、必須ミネラル、リカバリーetc……。(農場のメンバーは口を開けばタンパク質の話だとうんざりしているでしょう……)おかげで、去年悩んでいたハンガーノック(突然エネルギーが枯渇して動けなくなる状態)という燃費の悪い身体も、今年は改善することが出来ました。


考え方も変わりました。心の健康は身体の健康から。身体が整えば、心は後から自然とついてきます。そして、「今」に集中すること。ひんやりした土を触る指先の感覚、草刈りの後の匂い、風の温度、鍬から伝わる重さ。身体の感覚に集中すると、どんどん鋭敏になっていきます。


音に集中すれば、水路の水量が増えていることや、朝鳴いている鳥の数や種類が違う事に気付く。匂いや湿度に集中すれば、畑の病気を早期発見出来たり、去年より秋の風が早く、涼しくなり始めることがわかる。畑に現れる小さな生き物の移り変わりや、作物の成長スピードの変化がわかる。全体を感じることがミクロの気付きを生み、その逆もある。


余計な力が抜け、どんな作業でも効率よく、かつ繊細に出来るようになる。こうやって少しずつ身体と世界が馴染んでいき、生きているという感覚が生まれるのだと思います。


ある本によると、脳はマルチタスクが得意ではなく、高速でシングルタスクを切り替えているだけなのだそうです。あれもこれもとあたふたするのではなく、敢えて目の前の一つのことに感覚を集中してみる。そうすることで、うまくいくことや新しい気付きが生まれることもあります。


科学的に言えば、生きるということは代謝するということです。代謝をするには、食事からエネルギーを取り続ける必要があります。この世のあらゆる物質は、放っておくとバラバラに拡散していく性質(エントロピー増大の法則)があります。私たちは、食べて代謝を繰り返すことで、その崩壊に抗い、生命という動的平衡を維持しているわけです。


つまり、食べるということは生きることそのもの。食べたものによって、自分の身体が何で構成され、どういう生物であるのかが常に変わり続けています。今まで栄養価を意識したことは正直あまりなく、美味しさや好みだけで食事をしていましたが、実際に意識を変えてみると、体調が圧倒的に違います。この実感に伴い、ただ美味しい野菜を売っているというより、誰かの健康の一部を担っている仕事なんだという意識も持つようになりました。


微生物やミネラルなど、目に見えないミクロの化学的な世界。どうなりたいか? 食とは何か? という意識の世界。僕たちがデザインした長野の土から全国へ、そして誰かの身体をつくっているというつながりの世界。この根本的、かつすべてがつながっている全体性こそが、僕が農業を面白いと思う理由なのかもしれません。


最後にこれだけ言わせてください。タンパク質は本当に大事です。プロテインは、普段運動していなくてもおすすめです。ぜひ、うちの栄養価の高い美味しい野菜と一緒にどうぞ。


Let’sヘルシー!!


森内 奏人


 
 
 

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