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【11月】迷いの途中

グーグルマップのナビに言われるがまま車を走らせると、風の形がわかるほどまだ柔らかな稲が青々と道を囲んでいます。そんな美しい田園風景を横目に、緩やかな傾斜を少しづつ上がり、夏の木々が水面に映る湖の畔にその農場はありました。大阪から六時間。遠いような近いような道程の中で、長野という初めての土地、農業という初めての職種に対する不安と緊張をなんとかごまかしながら辿り着きました。


大阪での自分は実家が割烹料理店を営んでおり、漠然と自分が継ぐことになるのかなと考えていたところに店が潰れてしまい、高校卒業後追われるように働きにでて8年。立ち止まって自分を振り返ってみて見えたのは、人から好かれようと優しさを安売りし、言われるがまま流され、仕事に追われ、壊れかけた体と何も掴んでこなかった空っぽの心だけでした。考えることから逃げ続けて、失敗して諦めてきたその分だけ人が怖くなり、人も自分も信じられなくなり、きっとこの農場に来たのも前向きな一歩ではなくて、逃げ続けている途中だったのかもしれません。でも、それでもこの農場に来てよかったと思えたのは、やっぱり人なのでした。


萩原さんを始めすべてのスタッフの方達が悩みながらも、逃げずに考え続けているこの場所は今の自分にとって最も必要な栄養だったのだと思います。この農場で土壌分析をしてその野菜に何が足りないのか、その野菜が何を求めているのかを調べるように、この場所は自分に足りないものを与えてくれました。目の前のことを真面目にやること、手が届く範囲で人を幸せにすればほんの少しづつでも世界は変わって行くこと、誰かを信じることで自分を信じれるようになることを体験として教えてくれました。野菜を届けるということは誰かの物語を背負うことだと萩原さんは言います。野菜を作るということが誰かの人生の、体の一部になるのならできるだけ良いものを。それは途方もないくらい小さな一歩かもしれないけれど、何よりも確実な一歩。そう信じています。


のらくら農場に来て三ヶ月。まだ迷いの途中ですが、考え続けることからは逃げずに生きていきたいと少なくともそう感じています。来た頃青かった木々は、紅葉が始まり真っ赤になりました。


かず

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