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【6月号】世界地図

ある春の日、世界地図が完成しました。マッキー君が、畑の見回りチェック用として、完成させてくれたものです。農場の畑には、国の名前がつけられています。「地主さんの名前」や「土地の名前」でもなくて「国の名前」。それは、60以上もある畑を管理する為のアイデアで、僕はこのアイデアがとても好きです。

農場の日常会話を少しご紹介します。


「じゃあ、インドとカンボジア、パキスタンで長いもの芽出しが終わったら、チャイナでネギの定植しよう。そのあと、ロシアとモンゴルのたまねぎの株元の除草かな?イラクのたまねぎは大丈夫そうだったよ、除草まだ必要ない。それより、フィンランドのモロッコ(いんげん)か、トルコの丸さやのアーチを組んじゃうか?」 


「草刈りしてないのは、マダガスカルとカナダ、アルゼンチン、ペルー、UAE、トルコ、イタリアの上側とギリシャです。次の雨の時やっちゃいますか。」 真剣な話し合いです。農場以外の方が聞いたら「?」でしょう。忙しい毎日、うっかりシリアスにはいりこみそうな作業の合間にすきがうまれて、ほんの、ちょっとだけ、意識外で和んでいる。そんな気がするのです。


さて、その農場の畑全てをまとめた世界地図ですが、今までも、A4用紙2枚に分けて印刷してくれたものはありました。それを、だれもがパッと認識出来るように、おおよそ1/10,000スケールでホワイトボードに模写して、出荷場に張り出してくれたのです。


マッキー君が世界地図を完成させてくれる、少し前のこと。佐久穂町で唯一深夜までやっているファミレスで、同期のスタッフと僕のふたりで、あれやこれや農場のこれからの事を話しながら作戦会議をしました。そのなかの一つに、同期の彼発案の、世界地図の構想がありました。僕らが想像したのは、コンパネサイズの巨大世界地図を出荷場にぶらさげて、その地図をみながら、あーでもないこーでもないと作戦会議をしているチームの姿。大きな意図としては、「イメージの共有」「同じ目的地に辿り着く為の道しるべ的な象徴」でした。SF映画の見過ぎでしょうか。さながら宇宙船のコクピットの中、座標をみながら進路を決め、幾多の困難を越えて共に目的地を目指す航海士のように。


宇宙のように天文学的な数値とまではいいませんが、『 60を越える畑 × 年間約60品目の作物 × 1〜10番目くらいまである作数 』です。作数というのは、同じ作物でも長期間出荷する為に、時期をずらして種をまいたり、植え付けたりすることで、最大で10番目くらいまで複数の「作」があったりします。しかも、同じ「作」でも、ふたつの畑をまたいでいたりすることもざらにあります。


どこの畑に何が植わっていて、どんな作業が必要なのか。生育具合や天候、出荷量、虫の被害等によって日々、いや、数時間いや、数分単位で変化する、収穫する畑の場所、作業の順番。それはもう非常に完全に複雑なのです。


つまるところ、頭が追っ付かない! というのが同期の彼と共通のつまづいた事の一つ。他にも共通項がたくさんで、一致具合に驚きながら、ふたりの目線で、それらを話し合いました。


それらとは、先輩スタッフ陣は修羅場をくぐり過ぎてて、問題にはならないこと。自分たちが困った事は新しいスタッフさんも困ることかもしれない。だったら少しでも解消したい。仕事がやりやすくなるかもしれない。覚えやすいかもしれない。世界地図とかあったら楽しいかもしれない。


そんな話を、ある寒い夜にしました。それから間もなく、一大決心をした同期の彼は農場を去り、別の道へ進みました。正直、失恋級の衝撃だったけれど彼の選んだ道だから、応援しています。


彼と話していた構想とは別の形になったけれど、世界地図は完成しました。

実現してくれたマッキー君にとても感謝しています。いつも出荷場の見える場所にあるから。世界地図を見るたび彼のはにかんだ笑顔が浮かびます。自分のことよりみんなのことを考えていた、彼の想いを思い出せます。寄り添う気持ちを忘れないようにしたいと思えます。


同期の友が農場を去る際に贈ってくれた言葉を守りたいと思います。言われなくてもそのつもりでしたが改めます。そしてその努力は怠りません。 「元気で、これからも、美味しい野菜をつくりつづける。」


ですから、みなさま。今期もよろしく願い致します!!!! 

よしっ、畑の見回りいかなくちゃ。


たくやん

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