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【2月号】本を出す

女性スタッフに、北海道出身のユキルがいる。野菜の小分けオペレーションでは、丁寧、素早い、わかりやすい指示を出せる、という絶対的存在になっている。最初に会ったときは、農業という雰囲気がまるでしない、ちょっと異質の雰囲気をもっていた。なによりも、北海道なら農家さんもたくさんあるし、なんでこんな遠くの長野の山奥まで来てくれたのか不思議で、本人に聞いてみた。

「やるなら、食か染色だと思っていたんです。」


これは衝撃だった。食か染色・・・。こんな選択のカテゴリーは僕の頭にはなかった。


彼女は美大の染色科を出ていた。彼女のちょっと異質な雰囲気は、アート的なものだったのかもしれない。彼女にとってはアートと農業が同列に並んでいる感覚なのかもしれない。


佐久穂町は全国有数の白樺林がある。休日に、倒れた白樺の木の皮をとってきて、その皮の成分で染色した糸を見せてくれた。「白樺の皮は赤に染まるんですよ。」その柔らかな赤の色に、僕は震えるほど感動した。

はっとした。「僕は大きな勘違いをしていたのかもしれない。」


繁忙期の期間スタッフを募集するのに、僕は農業業界のサイトに人材募集していた。複数年契約を結んだので、今も使っている。サイトを使うかどうかではなく、僕の頭のなかが、「農業をしたい人」の枠に囚われすぎていた。


岩手出身、元服屋のタクヤンはクラフトビールと農業を選択肢に入れていた。DIYも大好きで、ちょっとしたものはすぐに作ってしまう。僕の変顔をTシャツにプリントしてきて、大爆笑を誘ったこともある。彼の場合、「自分で面白いものを作る」という中にたまたま農業があったのかもしれない。


草木染め、ファッション、クラフトビール、DIY...。農業業界という枠ではなく、彼らはカルチャー、つまり文化圏で自分の道を選んでいたのだ。この中にオーガニックの、のらくら農場がたまたまあった。


人を採用するのに、あるいは、気持ちが良い建設的なお取引を作っていくため、僕は、理念とかスタイルとか、社会デザインというような、文化圏で結ばれていくことに光を見る気がした。農業というよりも、「そういう文化圏の中ののらくら農場」という発信をする必要がある、というのを痛感した。


もう一つ。お昼のまかないが文化になってきた。もちろんプロの料理人さんにはかなわない。畑でとってきた食材で30分から一時間で15人前くらいを作る。一日分の野菜が取れるような料理。野菜をワッシワッシ食べる快感。大きなボールのサラダがあっという間にカラになる作った側の快感。これはプロの料理の世界とは別の豊かな文化だと思った。あまりにも美味しすぎて、この賄いのことを伝えてみたくなった。


農場の本を出そう


本なんてどうやって出すのかわからない。自費出版になるだろうか? 3名の出版チームを組んで、調査が始まった。そんな事を考えていると縁とはあっという間にできるもの。一週間ほど経ったとき、お取引いただいているスーパー、福島屋さんの会長が主催する、社会デザインとも言うべきミーティングにお声がけいただいた。僕の横でご挨拶された方が、商業界という出版社の笹井元編集長だった。「本に大切なのは時代性、革新性、公共性」とおっしゃった言葉が僕を貫いた。この人すごい。笹井さんに本の相談をした。会っていただけるとのことで、大宮駅のスターバックスで作った企画書を持って2時間語り合った。笹井さんは、ユニクロの柳井さんはじめ、4000人の経営者の取材をした経験があるプロ中のプロだった。とにかく話を引き出すのがうまい。話しながら僕の思考が整理されていく感じ。笹井さんの中には経営の大小は関係ない価値観があった。要は取り組みなのだと。そして本によって世の中を少し良くしたいという哲学を感じた。「家を出る前から決めていたんだけどね。萩原さん、本にしてみましょうよ。」出版決まってしまった!


のらくら農場、本の出版に挑戦します。農作業の忙しさの中でどこまでできるかわかりませんが、自分たちのやっていることに整理をつけて、これからの道を考えるきっかけにしたいと思います。


紀行

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