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【2025年4月】FarmStay in ニュージーランド(前半)

  • 4月1日
  • 読了時間: 6分


新婚旅行以来26年ぶりの海外。そして一人旅は学生時代にチャリで北海道を旅して以来になる。国際免許でのレンタカー運転も初めてだ。しかし、行くと決めたのだ!


そもそものきっかけは25年程前に遡る。のらくら農場が私と夫とまだ小さい長男だけだった頃、知人の紹介で訪れた人がヒロミさんだった。彼女の声のトーンは、デパートのインフォメーションスタッフを思い出させる。上品な話し方だった。その話し方からはなかなか想像できないが、九州から北海道まで2カ月半かけて一人で歩いて縦断していた。彼女がうちに来た時は、田んぼの除草を丸一日やる日だった。当時ののらくら農場の出荷は週2回だけだった。今も続いている「ちいさな野菜セット」を20件ほどの消費者に送っていた。なので、出荷がない週5日は、まるまる畑仕事をしていた。

田んぼの除草は、稲の間を歩きながら雑草を抜いていく。水が入った田んぼはぬかるんでいて足がとられるので、バランスを崩さないよう力を入れる。ズボズボと進んでは抜いた雑草を袋に入れて、田んぼの外へ持ち出す。私たちでさえ疲れる作業なのに、最後まで疲れを一切見せずにいる彼女の姿に(根性あるなぁ)と思ったのを覚えている。彼女は日本酒を販売する小売店で働いていて、ゆくゆくは海外で日本酒を広めたいと言っていた。


彼女と会ったのはそれっきりだったが、彼女の宣言通り、海外から毎年のように年賀状が届くようになった。時には「今、ヨットに乗って太平洋を航海しています」というメッセージが添えられていた。そのうち、日本の住所から年賀状が届くようになり、「今はニュージーランドに住んでいて、お正月に日本に帰ってきています」と添えられていた。「話が聞きたい!」と急激に思った。そう、ニュージーランドと言えば酪農。そして、うちの娘が畜産に興味を持ち始めてからというもの、私までもワクワクしている。娘は希望した農業高校に入学し、毎日部活動でヤギや羊の世話を楽しんでいる。羊の毛を刈ったり、ヤギの爪を切ったり、「今日は体重計に羊がなかなか乗らなくて大変だったよ」など、私もそんな話を聞くのがとても楽しみだ。ただ、畜産は農業以上に厳しい世界なんじゃないかと思っている...そんな状況や私の連絡先などを書いた手紙をヒロミさんに送った。しばらく経って電話がかかってきた。「今、成田空港にいます。これからニュージーランドに戻るところです。お時間大丈夫ですか?」と言う彼女の声は、あの頃のまま上品で、なつかしく思った。ヒロミさんは仕事の関係で酪農家と話す事も多いと言う。最後には、「私も行ってみたい!ニュージーランドで会いましょう!」と返事をしていた。日本で会うつもりが、ニュージーランドで待ち合わせとなった。


娘はまだ海外の酪農までは興味が及んでいなかった。ならば一足先にニュージーランドのfarmがどんな風か見てくるぞー!と決心した。酪農にも興味があったが、FarmStayにも興味があった。農業体験と宿泊を組み合わせた経営の仕組みも肌で感じたかった。


短い電話ではヒロミさんが具体的にどんな仕事をしているかわからなかった。色んなことを聞きたかったが、すべてはまず会ってからだった。お土産はのらくら農場の米3キロと、町特産のさくほーめんという米粉麺を持っていった。調べてみると、ニュージーランドの入国審査はとても厳しいことで有名、とある。泥で汚れた靴は、種や菌を食肉や乳製品はもとより、卵製品(インスタントカップ麺などに含まれる卵の加工品を含む)・バター・チーズ・牛乳ベースの飲料・ハチミツ・ハチミツベース製品もダメ。手作りのクッキーもダメで、市販のもので開封されていないものなら大丈夫との事。米はシール付きの米袋に入れて封をし、のらくら農場の判を押す。これで審査に通らなかったら捨てることになる。そしたら泣くなぁ… 




ニュージーランドに飛行機が到着したのは朝の5時でひっそりとしている。入国審査に並ぶ人達は、朝早いせいか、それとも少し緊張するせいか、ひそひそ話をしながら列に並んで少しづつ前へ進んでいる。入国審査のゲートは4つあり、4人の審査官が一段高い銭湯の番台のような場所に座っている。中身を徹底的に調べられるのは審査官次第とも聞いていた。(どうか優しい人に当たりますように…)と祈りながら、どの人が優しそうか目を左右に走らせる。「どうぞ」と言われて一段高い窓口に入国審査カードを差し出した。その人はほっそりした女性で年は40代後半~50代前半で私と同じくらいかもしれない。白いタンクトップから出た腕には、たくさんの刺青があった。そして、顔の顎にも刺青があった。私の緊張もMaxになった。審査カードを見た女性は、「Are you a farmer?」(農業をしていますか?)と聞いてきた。ニュージーランドの入国審査が厳しいのは、他国から雑草の種や家畜や土壌の病原菌を持ちこまない為だという。なので、農業をしている人の身近にはそういったものがあり、持ち込む可能性は高いと思われる。(うわ~この後何聞かれるんだろう)と不安になりながら、「Yes. I’m a farmer in Japan」と日本語のようにはっきり発音すると、女性はにっこり笑った。「お米を持ってきたのね?」と聞かれたので見せようとすると、「見せなくても大丈夫よ」とまたにっこりしていた。私は今回FarmStayがメインだったので、その時勉強不足で知らなかったのだが、刺青はニュージーランド先住民のマオリ族のもので、伝統文化とアイデンティティを表現しているそうだ。人口の15%がマオリ族で、都市でもよく見かけた。若い女性が短いスカートの下に柄物のスパッツを履いているのかと思えば、それはスパッツではなく刺青だった。刺青を入れるのはものすごく痛いと聞くが、それだけ大切ですごい根性なのだと思う。





ヒロミさんは、空港があるおしゃれな街Aucklandに住んでいた。その中心には日本のスカイツリーそっくりなタワーがあり、ヒロミさんのofficeは、その近くの高層ビルにあった。彼女はなんとニュージーランドで会計士になっていた。最初はお酒の販売をしていたが、その会社が倒産してしまい、太平洋をぐるぐる回る舟にボランティアで乗り込んだそうだ。その後、会計士の資格をとり、今は日本企業が海外進出する際の現地アドバイザーをしているそうだ。私は、その高層ビルを見上げながら、25年前に田んぼの除草を手伝ってくれた姿がオーバーラップして、「こんなに立派になって…」とまるで孫をみる祖母のような気持ちになった。


気になるスーパーマーケットにも案内してくれた。カリフラワーやキャベツ、パプリカなど、日本と変わらずキレイな野菜が陳列されていた。ビーツは各家庭で酢漬けにされてよく食べられているそうだ。日本との違いは、バラ売りされている野菜や果物も多く、バナナも1本ちぎって買うことができる。画用紙ほどに広がって繋がっているショウガも、必要な分を折り取ってレジに持っていく。セルフレジは、バーコードを読み取る他、計りにもなっていて、バラ売り品を載せると重さと値段を表示してくれる。卵はどれも紙パッケージで、フリーレンジ(放し飼い)と書かれている。ニュージーランドでは、バタリーケージ(小さいおり)でニワトリを飼育することが法律で禁止されたそうだ。その価格は、なんと8個入り700~800円!でも、きっと日本の卵は野菜と同じで安すぎているのだろう。




翌日はレンタカーまで案内してくれた。中心地を少し離れると、道路は広く、2車線分の広さがあり、そのうち歩道よりの1車線がすべて駐車可能で、ずらりと車が駐車されている。「ニュージーランドでは駐車するのに困らないですよ。バックで駐車する人はほとんどいないです。」と彼女が教えてくれた。なんとも羨ましい限りだ。レンタカー初心者の私はちょっと安心した。ここからは一人で150キロ離れたFarmStay 先へ行く。


(後半に続く…)


萩原幸代


 
 
 

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