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【11月号】立ち止まったその先へ

 



初めまして。今年のらくら農場で期間スタッフとして働かせていただいています、槌本俊貴です。大阪府出身31歳、ほんわかした妻と、人懐っこい長男(4歳)、わんぱくな次男(2歳)、ハイハイをし始めた三男(0歳)と大分県臼杵市という場所で独立就農して約三年間有機農業をしていました。


 学生時代はサッカー、水泳、ラクロスと朝から晩までスポーツに明け暮れ、周りが就職活動していく中で、自分の好きな体を動かすことで突き詰められることを一生の仕事にしよう、と決めていました。自分の興味を掘り下げていく中で、自然を相手に食べ物を作る農業に魅せられ、次第に色々な農家の元へ手伝いに行くようになりました。季節に沿って年単位で様々な工夫を凝らしていく、そこには植物のダイレクトな反応がある。シンプルかつ奥深いその世界に、今まで部活に夢中になっていたように、ただただ楽しくて、面白くて、のめり込んでいきました。特に多品目栽培の場合、あらゆる作業が交差するために、農業を外から見ているだけではわからない「流れ」のようなものがそこにあって、自分もこの体でその流れに身を乗せて野菜作りに没頭したい、という思いで農家になることを志しました。


 今までは、与えられた環境の中で最大限の成果を出すということを、スポーツを通してとにかく夢中になってきましたが、独立して農業をして、まず自ら環境を整えなければいけないと知りました。野菜を作るための畑、生産するための資材、効率的に作業を進めるための機械、それらを整えていく資金、作った野菜の売り先、地元の人たちとの人間関係、様々な当たり前を一つ一つ積み上げて、初めて自分の好きな農業に夢中になれるのでした。


 売り先もないまま、作りたい野菜を片っ端から植えまくり、朝から晩まで畑にいました。月明りの下、畑で作業していて、犬の散歩をしていた近所の人をビックリさせて絶叫させたこともありました。家に帰ってからも、野菜の栽培の本を読み漁り、ナスの剪定の仕方を調べて明日これやってみようと、ワクワクして眠れない夜もありました。三年目を迎え、少し野菜作りの感覚がつかめてきた感じもあり、売り先もちょっとずつ見つけられるようになり、少しずつですが、前には進んでいる感触はありました。管理栄養士の仕事を辞め農作業を手伝ってくれるようになった妻も、出産や育児でなかなか畑に出られなくなり、次第に仕事が回らなくなり、パートさんにも来てもらうようにもなりました。三人目の出産を控え、いよいよ人を雇うことも視野に入れて覚悟を決めなければいけないな、という気持ちが芽生え始めると同時に、このままがむしゃらに進むことの危うさも感じていました。自分の感覚以外に根拠のない野菜づくり。資材高騰や送料の値上がりが拒む壁。高齢化でどんどん空いていく周りの畑。変化の中で淡々と積み上げて行くことの先にしか道がないと分かりつつも、今、自分が立っているところから見えるものだけを見ていては間に合わなくなる怖さがありました。このまま、自分のあいまいな感覚や経験に軸足をおいて、家族を守っていけるのだろうか。


もっとタフで強い農家になりたい。

農業をビジネスとして成立させる知識と技術が自分には足りてない。

きちんと結果を出している現場を見たい。見なきゃだめだ。


そんな時目にしたのがのらくら農場の求人でした。言葉にできない心の動きを感じました。


一度立ち止まってここで学びたい。


 目に映ることがすべて新鮮でした。自分なりにやってきた経験を持って、のらくら農場で働けることが刺激的でした。天気や出荷量などが変化していく日々の中で、スケジューリングされた作業を、時に柔軟に、しかし野菜の味を決める施肥の時期は確実に、スケジュールを守って実行していきます。出荷の強弱と、一瞬の晴れ間を狙って畑に一気に人数をかけて出ていく勢いには、一人でやっている農業では、圧倒的にたどり着けない力強さを感じました。ベテランのスタッフも新人のスタッフも農業にのめり込んでいる。季節の流れに沿って、時に追い立てられながらも、生き生きと。これは、土づくりから、種まき、日々の管理、収穫、出荷までの全体を見ていないと分からない感覚で、みんながそれぞれに「流れ」を感じている。今年ののらくら農場では、担当制でチーム編成されています。3~4人のチームで、例えばナス、きゅうり、白菜、レタスなど数種の野菜を担当しています。日々の生育状況、収穫量の見込み、お店への出荷量の調整など、あらゆることに責任をもって担当しています。役割は、責任ややりがいを生みますが、反対に行き過ぎると、負担や孤独感が大きくなることにもつながります。そこを、チーム制でそれぞれの役割がありながらも、ベテランのスタッフが一緒に考えながら、絶妙にサポートに入っているのが印象的でした。担当を越えて、横断的に日々の仕事にも関わり、お互いの視野で補い合う。自分が本気で向き合う作物があるからこそ、より誰かの真剣な思いにも寄り添える。


 約半年間のらくら農場で働かせてもらい、農場としての強さと厚みにたくさん触れさせてもらいました。目の前に解決しなければならない課題が生まれて、それをどうにか解いていく。その経験が次のチャレンジに活かされる。そういった長いスパンでの繰り返しが、いつだって未来を作ってきたのだと。その場限り短期的な最適解を何となく求めるのではなく、試行錯誤を恐れずにチャレンジに挑むこと、それも地に足のついたチャレンジを続けること、それを楽しむこと。まったく手の届かないことをやっているということではなく、壁にぶつかった時に逃げずに向き合い乗り越えていった先に、周りのできないことができるようになっているのだと。そこには、考えや思いを深めていくサイクルがあり、真剣に向き合う中で、それいいねと誰かの熱意に共感し、前に進む力があります。


 自分も、大分に戻ってとことん走りつづけたい。おいしい野菜を届けるということに真剣に向き合うチームを作りたい、そう思わせてもらいました。そして真剣に楽しみながら農業に向き合う、心から尊敬できるのらくら農場のスタッフの皆さんと過ごした約半年間が、心の中にしっかりとあって、これから進む自分を温かく支えてくれるような気がします。


 元気でおいしい野菜に出会って感動を覚えた瞬間に、いつもの暮らしに笑顔が増えました。その豊かさが、自分の農業の原動力だと思います。日々の暮らしの中に、ささやかでも幸せを感じられるような野菜を届けられるように、大分に戻って、覚悟を持って進んでいきます。槌本



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