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【8月号】"その後のすがた"

ぴかぴかの野菜を作り出すべく、わたしたちは毎日を過ごしている。 今は葉ものが終わりを迎え、果菜類の出荷・収穫が一日の大部分を占める。ズッキーニときゅうりは朝と夕の2回、収穫に入る。つまり、朝の時点ではまだ収穫するには小さかったその実が、夕方にはもう穫れる大きさになっているということだ。そのくらいぐんぐんと成長する。その合間を縫って、わたしたちは畑仕事をする。

今年の梅雨は長い。雨が降っている最中はできない作業も多いが、雨がやんだら「今だ!」と畑に出る。次の晴れ間はいつになるか分からないから、逃してはならない。先日は、秋作のケールの定植(苗を植えること)をした。雨でぐずぐずになってしまった畑には、なるべく踏み固めないように最低限の歩数で入る。1反2畝という広い面積だが、今年からお手伝いしてくれているパートさんたちの力もあり、あっという間に植え終わる。秋作の植え付けは数日遅れただけで収穫日が予定よりもどんどん先延ばしになってしまうから、タイミングがとても重要だ。こんなふうに、出荷・収穫と畑仕事のバランスを見ながら、かつ天候と相談して毎日動き回る。この慌しくも湧き立つような日々の中でふと顔をあげたときに、野菜たちのその後を思うときがある。わたしたちが出荷したこの野菜たちは、一体どんな姿になって人々の胃におさまったのだろうか。

収穫をしながら、規格外で畑に返さなくてはならない野菜にたびたび齧りつく。あるときは、ちょっとばかり傷がついてしまった大きなトマトにがぶり。たった今、その枝から切り離されたばかりのみずみずしさ、鼻に抜ける少し青っぽい匂い。太陽の熱を受けたぬるいトマトもまた良し。あるときは、大胆に曲がってしまったけれど、まだちくちくと棘が残った新鮮なきゅうりをポリっ。こういったものたちを、欲にまかせて口に運ぶときの気持ちよさといったら!野菜の勢いをそのままいただくような、こんな食べ方をわたしは愛している。

お昼のまかないもまた、飾らない身近なごはんだ。のらくら農場のまかないが始まったのは二年前のこと。多いときには15人前のごはんを一時間でつくるので(台所から、「あと一品…あと一品…」というひとりごとが聞こえてくることもある。料理が得意でない人たちも頑張ってくれています、どうもありがとう。)、簡単だけどおいしい、

 

素朴だけど力強い料理になる。たとえば、大胆に切って蒸し焼きにした、まるまると太った緻密なかぶ。生のまま、ごま油とお醤油を和えていただく葉ネギご飯はみんなの大好物。じりじりと焼き付けられた茄子とねぎのお味噌汁はやられた!とすら思う。焼くこと、焦がすことがおいしさになるのだ。1日の仕事を終えて、くたびれた体でつくる夜ごはんも大体こんな塩梅である。なんというか、“抜き”のようなものが混ざる。毎日の暮らしの中で何気なく作れる、なんてことない、骨太な料理。

一方で、芸術と呼ぶほうがしっくりとくるようなものもある。わたしの頭では思いつきもしないような食材の組み合わせ。美しい佇まい。


のらくら農場の取引先に、ヒロッシーニさんというワインと西洋料理の店がある。わたしは今年でのらくら農場でお世話になって三年になるが、一年目の夏、寮のみんなでヒロッシーニさんにコース料理を食べに行った。寮で決めた、月に1度の外食デー。あの夏はほんとうに暑くて、ズッキーニの収量は大爆発。(そのたくましいパワーに、わたしは時々負ける。)その日の夕方も容赦ない量のズッキーニを収穫した。くたくたになりつつもなんとか辿り着いたその店で、確か二皿目に出てきた冷たいとうもろこしのポタージュ。その上には白く美しい半球、なんとバニラのジェラートが乗っていた!いったいどんな味がするのだろうと、気持ちは浮き上がる。液体と固体を一緒にスプーンですくい、口の中で混ぜ合わせて堪能する。なめらかで、濃厚で、つめたくて、ものすごくおいしい。なんて至福の組み合わせ!とても繊細な味わいで、手間をかけられているのがよく分かる。そして飲みこんでからもまた、とうもろこしの野性味のある甘さがぐんと上がってくる。うーん、おいしすぎる。そして眠すぎる。おいしい・・。眠い・・・・・・。半分眠りながら食べたこの味は、今でもありありと思い出せる。わたしはなんでも指でつまんでそのまま食べてしまうような人間だが、ときには泥だらけの作業着を脱ぎ捨て、こんな素敵な一皿をいただくのも良い。

農業とは、こういった美しいものたちが生みだされる源なのではないかな。ここに携われることを嬉しく思う。今日出荷した野菜たちは、いったいどんなふうに生まれ変わるのだろう。おなかがじんわり温かくなるような家庭料理か。はたまたわたしのまだ知らぬ眩い料理か…。そんなことを考えながら、今日もまたぬかるんだ畑へ向かう。どうやら間もなく梅雨が明けるらしい。小さな夏が来る。


ユキ

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