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【2025年2月】内燃機関



去年、僕は良い言葉を手に入れました。「内燃機関」。


取引先様が研修で農場にいらした際に、代表の萩原さんが「自走するためのきっかけ、内燃機関になる何かを持って帰ってもらえるような研修にしたいね」と言ったとき、ストンと自分の中に落ちてきた言葉です。


農場のメンバーは火種こそ違うかもしれませんが、まさに全員が内燃機関を持ち合わせているのだと思います。自分の仕事に責任感と向上心を持ち、考え抜く。今何が起きていて、より良くする為に何ができるのか。常に全員が考え、停滞がない。二シーズンを過ごした中でちょっと成長出来たかも?と感じたとき、それは同時に今まで気付いていなかった仲間たちの凄さに気付けた時でもありました。作業に慣れてくることで思考が深まり、見えていなかった点が見えてくるというのは作業上でも人間関係でもよくあることです。こちらも農場でよく聞く言葉で「さわやかな敗北感」というのがあります。仲間たちのモチベーションや良い面、努力を感じさせる場面を見る度に、いかに自分がまだまだであるかを気付かせてもらっています。内燃機関の相乗効果というか、仲間の熱が伝播する現象が全員で循環していくので、螺旋状に士気が上がっていくのがチームで仕事をする面白さだと思います。



ある春の日、軽トラ満載の大根を見て(一車で九百本くらいです)この大根の本数分の食卓に幸せを届けているってことか!とふと思えたことがありました。前職の時から仕事自体は楽しかったのですが、何か心の底から湧き上がるような嬉しさ・やりがいみたいなものをずっと探していました。そんな中、目の前の仕事のその先、見えているようで見えていなかったかもしれない野菜を手に取ってくれる人達の表情が、考えるでもなく自然に映像として浮かんできたのです。自分のしてきた仕事に自信を持つというのはこの時が初めての経験でした。同じように全ての野菜を、自信を持って送り出したい。そのために野菜を形作る全ての要素、圃場・施肥設計・資材・機械・微生物・菌・気候・人間関係・空気感・・・無数にある答えのない組み合わせを、より深く理解し最適解を見つける力を持ちたい。自信を持って作った野菜が誰かの幸せになることを考え続ける。辿り着いた答えとしてはシンプルだし、生産者であればあって当然の気持ちかもしれません。ですがまぎれもなくこれが僕の内燃機関であると思いました。


農場の全員が、美味しい野菜をできるだけ沢山の人に食べて頂けるように一年中頭を使い続けています。天候に左右されながらもなんとかギリギリの日程で作業を進め、収穫・小分けを経てやっと商品となり、自信を持って美味しいをお届けしているつもりです。そこまでやるのが前提で、その上で頂いたご意見は真摯に受け止める。農場では例え小さなことでも頂いた意見が流されることはありません。真摯に農業に向き合ったという自信が、自然に湧いてくるような仕事を常にしていたいと心から思うのです。



農場では年末の最終日に忘年会をやるのですが、一人一言今年を振り返る時間があります。責任感と悔し涙、踏ん張って良かったと泣くほどしんどい時期があったこと、家庭と仕事のバランスをとる難しさ、六年という日々を過ごした農場を去る決意をしたこと、代表・萩原さんが持つ次世代の農家への強い想い・・・。勿論本当に楽しかった!といって最高の笑顔で締めくくる人もいます。皆それぞれ多様なバックグラウンドを持ち、それゆえにそれぞれの人生において強い想いでこの一年と向き合った、尊敬すべき人たち。でも同時に、僕はどんな表情をしているのだろう?と思ってしまいました。良い年ではあったけど、もっと挑戦も勉強もできたんじゃないかな、ちゃんと真剣だったかな、と。



三年目になった今年、圃場長をやらせて頂けることになりました。全体を俯瞰し、作業内容を決めたり指示を出したりといった仕事は、コミュニケーションが苦手な僕にとっては「最も苦手なこと」への挑戦です。僕は特に何かが秀でているわけではないですが、逆に最も苦手なことは明らかでした。去年、いつだってポジティブが人を動かすこと、空気感という抽象的だけど確実に存在するもの、自分の能力へのもどかしさ、他人のことを知りたいという気持ち、野菜を手に取ってくれる人の幸せを考えることなど、今まで持っていなかった思考の変化のきっかけを沢山手に入れました。このきっかけを無駄にしたくない、変化のチャンスを逃したくない。人生のうちの一年を共に過ごすことになる人たちに、泣いても笑ってもそれぞれ意味のある年だったと最高の表情で締めくくってほしい。頼れる仲間たちに助けてもらいながらになるとは思うけれど、今年の年末には確実に成長した姿で立っていたい。そう思って挑戦することにしました。


これを書いている一月上旬、農場では既に三百を超える改善点の検討や畑の配置図作成、施肥設計をはじめとする来春の準備がいそいそと始まっています。こんなに春が楽しみなのは人生で初めてかもしれません。長くなってしまいましたが、やることはシンプル。全力で、常に新しい自分で。内燃機関をガンガン燃やして皆で駆け抜けますので、よろしくお願い致します!



森内奏人

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