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【2024年2月号】「美味しいの要素」



皆さんは、「美味しい」とはどんな要素から成るか、意識したことはあるでしょうか?今回は私が個人的に大切にしている、「美味しい」の要素について少し書かせていただきたいと思います。



初めまして、今シーズンから通年スタッフとしてお世話になっている、森内奏人と申します。中学生くらいの時から漠然とではありますが農業をやることが夢で、農業界に入る前に食材の行き先や扱い方を近くで学ぶために、大学卒業後に二年半ほど都内飲食店で勤めました。今年からいよいよ本格的に農業の世界に足を踏み入れたわけですが、実際に生産に携わることで食や「美味しい」についてより深く想いを抱けるようになりました。



一般的に「美味しい」と言えば、五つあるといわれる「味覚」の事だと思いますが、僕が冒頭で触れた要素とは「生産物の背景を知る」という面白さ、味覚にプラスされる要素の事です。


前職で面白い経験をしたことがあります。とても好きな生産者のある年のワインを飲んだ時、他の年には感じない暗さや悲しげな雰囲気があったのです。元々産地的にも明るく社交的というよりは、芯がありながらしっとり繊細で内向的な雰囲気を持つ地域ではあるのですが、そのワインだけは違うように感じました。インポーターの方に聞いてみると、生産者の方に酷く悲しいことがあった年で、その年から仕込んだワインは三年分程暗い雰囲気があるとの事でした。また別のワインでは、飲んだ時に霧がかかった山にしっとり降る雨がイメージできたり(その年は特に雨が多い年でした)、明らかに海の近くで造られた事を感じさせる潮の香り、火山性由来の角のある鉱物感、ハーブや花の香り…など、事前に知らなくても頭に知らない土地の景色が広がるようでした。感情や気候、その土地の風土が一本の瓶に詰まってはるばる日本までやってきて、それをちゃんと感じることが出来るなんて、本当に素敵だなと学べた良い二年半でした。


佐久穂町は四季の移ろいが美しく、働くうえでも五感をフルに使いその変化を感じられる気持ちよさがあります。標高が高いので朝晩・季節ごとの気温や湿度の差が大きく、植物の色も毎日目に見えて変わり、野菜も季節ごとに特徴が強く出てきます。例えばのらくら農場のカブはフルーツのような甘味が特徴的ですが、春のカブはクニュッとした熟れた柿のような触感とやわらかく広がる濃厚な甘み、冬のカブはシャキッとしたリンゴのような触感と輪郭のあるまっすぐな甘味があります。


のらくら農場の野菜セットは「ちいさな畑セット」と言いますが、僕はこの名前がとても好きです。ちいさな畑セットはちいさな佐久穂セットでもあり、僕たちが畑で感じる季節の移ろいや、時期のずれや味わいの違いなどに感じることが出来るこの地域の空気感を、一本のワインのように詰め込めるような気がしているからです。


Farm to tableという言葉があります。レストランで使われ始めた言葉で「農場から直接(レストランの)食卓へ」という意味ですが、私はこれを農場からご家庭の食卓へという意味で解釈し自分の中で大切にしています。先程書いたような季節や空気感を意識して野菜をお届けすること、また食べて感じることだけでなく、農作業・天候・文化などその土地や働く人を想像できること、これらはきっと味だけによらない「美味しい」の要素であると思います。


もう少し掘り下げてみます。食事のとき、人が見えるとおいしいと感じることはないでしょうか。例えば安定しておいしい機械が作ったおにぎりと、塩気にムラがあるおばあちゃんのおにぎり…どちらが正解ということもないと思いますが、私は後者が素敵だなと思います。人が関わるという事、それも目に見えて想像しやすい場合はなおさらですが、誰かが自分の為に時間を使ってくれているということを実感するとあたたかみを感じたり、人とのつながりを意識できたり、その場に作り手が居たり知り合いである場合は会話が広がったりします。食材の背景を知っているほど、食事という行為を飛び出して生産者や地域、食卓を囲む人とのつながりを感じることができます。



野菜(食べ物)を生産者から直接買うことの良さとはなんでしょうか。品種や栽培技術による美味しさ、直接買うことによる鮮度、これはもちろん大切だと思います。のらくら農場のような多品目農家だと種類の多さというのも楽しみの一つかと思います。

では、どうしたらその人たち、その農場から買いたいと思ってもらえるでしょうか。


顔が見える野菜というのがありますが、私はのらくらに来て顔だけでなく仕事や人柄が見える野菜を目指したいと考えるようになりました。ここに来て驚いたのは、全員が仕事を心底楽しんでいることです。目が輝いていて、何事にも前のめりです。スタッフが燃えるようなモチベーションとスピード感で作業をこなし、変動する気候すら楽しそうに乗り越え、それゆえにこんな特徴がある…。農場の皆を知ってもらえたら野菜セットを飛び越えて農場ごと楽しんでもらえる!手に取って頂いた商品や野菜セットから美味しさはもちろん農場との、私たちスタッフとのつながりを感じ取れるような仕事をできれば、皆さんの食卓を盛り上げるきっかけになれるかもしれない。本気でそう思いました。


今年は暖冬ですがそうはいっても寒い佐久穂町、冬の間は春から始まるシーズンに向けて頭を使う時期です。作付け計画から始まり数多くの改善点や新品種の検討、一年分の施肥の準備など全員が毎日悩んで、勉強して、一歩ずつ進んで、そして本当に楽しそうに仕事をしています。みんな個性があるけれど、それぞれの向き合い方で農業に挑戦し、よりお客様に喜んで頂けるように努力しています。農業を始めたばかりの私はまだまだ力不足で、先輩たちの背中を全力で追いかけるしかないと感じる毎日です。


野菜を手に取ってくれた人には、私たちがいつも真剣かつ全力で作業していることや佐久穂は今どのくらい寒いのかな、なんて想像しながら食べてみて欲しいと思います。その手に取ってくれた野菜は、僕たちが笑顔で送り出したものであると自信をもって言えます!

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